伝えたいことは一つに絞られる
若い人に何を伝えたいのかと尋ねられたとき、答えは結局のところ一つに絞られていくことになります。基本となる工程を数え切れないほど繰り返すこと、結局はそこに尽きるのだと考えるようになりました。
新しい技を覚えることや珍しい素材を扱うことは、実のところ後からいくらでも身につけていくことができます。ところが基本の反復だけは、若いうちに積んでおかなければ後からどうしても取り返しにくいものです。
包丁の運び方や火の当て方は、体が考えなくても動く状態になって初めて意味を持ってくるものです。頭で覚えているという段階のままでは、忙しい時間帯になるとどうしても崩れてしまうことになります。
基本が体に入っている人は、慌てるような場面でも仕上がりが揺れず、周りからも自然と頼りにされます。見た目の派手さはありませんが、その安定こそが実は厨房の中で最も重んじられているもののようです。
反復を続けていくための工夫
反復を続けていくためには、同じ工程であっても毎回小さな狙いを持たせておくとよいように思われます。ただ同じ数をこなすだけになってしまうと、やがて飽きが来てしまい、続かなくなってしまうからです。
自分の動きをときどき人に見てもらう機会を作っておくと、崩れている箇所に気づきやすくなります。気づかないまま同じ癖で繰り返し続けてしまうと、その癖のほうが先に体に入ってしまうことになります。
記録を残しておくと、伸びの実感が得られ、続けようという気持ちを支えてくれることになります。少し前の自分といつでも比べられる形にして残しておくことが、長く続けるうえでの確かな助けになります。
専門学校で学んだ資格に向けた知識は、なぜその一つ一つの手順なのかを説明してくれる確かな土台になります。料理人として反復を積んでいくときにも、その理由が分かっていると途中で崩れにくくなっていきます。
まとめ
若い人に伝えたいことをあえて一つだけ選ぶとすれば、それは結局は基本の反復に尽きるという答えになります。新しいことは後からでもいくらでも身につけられますが、体に入る土台だけは早いうちにしか積めないからです。
反復を長く続けていくためには、狙いを持たせること、人に見てもらうこと、記録を残すことが助けになります。この三つを組み合わせていくと、単調に見えていた繰り返しがやがて確かな手応えのある時間へと変わっていきます。
地味な答えではありますが、長く働いてきた人ほどみな同じことを口にするのには、確かな理由があるようです。積み上げてきた土台の厚さが、結局のところその後の伸びしろの大きさをそのまま決めていくのだと感じられます。