若いころに上位にあったもの
働き始めたころは、速さと手数の多さが、何よりも大切なものとして並びの上位に来ていたように思います。人より早く仕上げられるということが、そのころは力の証しそのもののように感じられていたのです。
次に来ていたのが、扱うことのできる工程の幅の広さで、毎日できることを増やすのに必死になっていました。任される仕事が一つずつ増えていくということが、進んでいる実感につながっていたように思います。
見た目の華やかさや、人の目を引く組み立てへの関心も、当時はずいぶん高い位置に置かれていました。人を驚かせられるかどうかということが、良し悪しを決める基準になっていた時期が確かにあります。
その並びが間違っていたわけではなく、その時期にはやはり必要な順序だったのだろうと思われます。速さも手数の幅の広さも、若いうちに体へ入れておかなければ後からどうしても取り返しにくいものです。
年を重ねて上がってくるもの
年を重ねるにつれて静かに上がってきたのは、同じ味を毎日そろえられるという安定のほうだったようです。良い日と悪い日の差が小さいということこそが、店にとって最も大切なのだと次第に分かってきました。
その次に上がってきたのが、周りの人たちが働きやすい場を作れるかどうかという点になってきます。自分ひとりの腕前よりも、店全体としての力のほうが最後は結果を決めていくのだと知ったからです。
素材そのものを見極めるという力も、年を重ねるほどに順位を静かに上げてくるように感じられます。手を加える量がだんだん減っていき、選ぶことのほうが大事になっていくという変化が起きてきます。
専門学校で学んだ資格に向けた知識も、年を経てから読み返してみると見え方が変わってくるものです。料理人として長く働けば働くほど、基礎の位置づけが上がっていくというのはじつに面白いところです。
まとめ
年齢を重ねていくと、自分の中で大切だと感じるものの並びがだんだんと入れ替わっていくことになるようです。速さや幅の広さが上位にあった時期を経て、やがて安定と場づくりのほうが上へ上がってくるという流れがあります。
並びが変わったからといって、若いころに置いていた順序のほうが誤りだったということにはならないようです。その時期に必要なものを上位に置いていたからこそ、ようやくその次の並びへと移っていくことができたのだと言えます。
いま上位にあるものも、これから先にまたきっと入れ替わっていくのだろうと考えると、少し楽しみになってきます。並びがこうして動き続けているかぎり、この仕事にいつまでも飽きてしまうということはないのだろうと感じられます。